1.幹細胞移植は心筋梗塞に起因する心機能障害を治療する
2.心筋梗塞を起こしたラットに胚性幹細胞由来細胞(EDC)を静脈内注入したことで心機能が改善
3.心筋梗塞による幹細胞治療は適応でない場合もある
1.幹細胞移植は心筋梗塞に起因する心機能障害を治療する
幹細胞で心不全が治せることはご存知ですか。近年、幹細胞移植は心筋梗塞によって引き起こされる心不全の新しい治療法として浮上しています。胚性幹細胞(ESC)は、可塑性と心筋形成能が高く、梗塞した齧歯類の心臓にも正常に移植されています。少し専門的になりますが、心筋梗塞は、炎症反応に必要なマスト細胞、マクロファージ、および炎症を引き起こすサイトカイン(細胞から分泌される低分子のタンパク質で生理活性物質)の活性化に関連しています。幹細胞はとても万能で、それ自身が様々な細胞になることが出来ます。そして心不全の炎症反応時に働きます。つまり、静脈内注入された胚性幹細胞(EDC)が心筋梗塞後に炎症反応時、局所的に放出されたサイトカイン(細胞から分泌される低分子のタンパク質で生理活性物質)に応答して損傷した心筋と取り替わることが出来、心機能を改善できるというわけです。故に幹細胞治療は、今までにない画期的な治療法なのです。
2.心筋梗塞を起こしたラットに胚性幹細胞由来細胞(EDC)を静脈内注入したことで心機能が改善
心筋梗塞を起こした45匹のラットに6日間、胚性幹細胞由来細胞(EDC)を静脈内注入し、心筋梗塞および細胞注入の6週間後、心機能、血流、および細動脈の数値密度を測定し、胚性幹細胞由来細胞(EDC)が心機能を改善させたことを報告する研究論文を紹介いたします。少し長いですが、お付き合いください。
胚性幹細胞由来細胞(EDC)の静脈内注入6週間後、心筋梗塞を起こしていない偽手術群(見せかけの手術を行い本質的に治療していないもの)と比較して、体重と体重比が大幅に増加しました。幹細胞の静脈内注入したラットは、心筋梗塞後幹細胞を注入していないラットと比較して、心肥大の重症度を減少させただけでなく、梗塞面積も部分的に減少しました。(下図参照)つまり、幹細胞の注入で心筋梗塞部位が正常に戻ったのです。
さらに、心筋梗塞後幹細胞非注入群のラットでは、偽手術および幹細胞注入群の値と比較して、LVSP(左室収縮期血圧)が低く、+ dP / dtmax(最大左室収縮期血圧上昇率)が低く、-dP / dtmax(左心室の収縮期血圧の最大低下率)が低く、LVEDP(左心室拡張末期血圧)が高くなりました。しかし、心筋梗塞後胚性幹細胞由来細胞(EDC)注入し6週間後のラットでは、心臓の血圧値が増加し、心機能を有意に改善しました(下図参照)。故に、幹細胞で心臓の血圧値も通常に戻すことが出来ました。
そして、局所血流量は心筋梗塞後のラットで有意に減少しましたが、幹細胞注入によってL左心室局所血流量と細動脈の密度を大幅に増加させました。(下図参照) 以上の結果から、幹細胞注入で心血流量を増加させ、血管新生(既存の血管から伸長して新しい血管を形成すること)を増強することがわかりました。幹細胞は心機能を改善し、血流量をも平常に戻すことが出来ました。
心筋梗塞後のラットの心臓切片のHE染色(ヘマトキシリンとエオジンの2種類の色素を用いて、細胞核と核以外の組織 成分を青藍色と赤色とに染め分ける染色法)は、胚性幹細胞由来細胞(EDC)を注入により、細胞注入後6週間で梗塞領域および周辺領域での壊死の減少が確認出来ました。(下図参照)つまり、幹細胞注入で、心筋梗塞で壊死した部分も元に戻すことが可能になったのです。
3.心筋梗塞による幹細胞治療は適応でない場合もある
当院では、心筋梗塞後に幹細胞を注入することで心機能を改善する幹細胞治療を行っています。従来の治療では不可能であった心筋梗塞後の部位の改善を可能にします。ただし、一部治療適応外となる患者さんもいらっしゃいますので、心筋梗塞による幹細胞治療に興味のある方は一度当院にご相談ください。
参考文献
https://www.jtcvs.org/article/S0022-5223(06)00007-9/pdf
https://ufhealth.org/heart-attack
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